函館家庭裁判所 事件番号不詳 判決
本籍 凾館市新川町百四十六番地
住居 同市高砂町四十四番地
特殊飮食店業
白田稔 明治三十一年八月二十三日生
主文
被告人を懲役六月に処する。
但しこの裁判確定の日より三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
甲 罪となるべき事実
被告人は昭和二十七年六月頃から肩書居宅に於て、接客婦を使用してその売淫行為による対価を接客婦との約定に基き配分取得するを業とする所謂特殊飮食店を経営してきたものであるが、同二十八年十二月十四日頃より同年同月二十六日頃迄の間前同所に於て十八才未満の児童である大○フ○ヱ(昭和十三年四月二十六日生)を接客婦として使用し、同女に対し不特定多数の男性と売淫を為さしめ以つて児童に淫行をさせる行為を為したものである。
乙 証拠の標目
一、被告人のこの法廷に於ける供述
一、被告人の検事に対する供述調書
一、裁判官の証人大○フ○ヱ、同大失東助に対する各尋問調書
一、青森県東津軽郡高田村長より司法警察員沢村久信に対する大○フ○ヱの本籍、年齢に関する回答書
一、大○フ○ヱ、大矢東助に対する検事の各供述調書
一、斎藤茂奈加に対する検事の供述調書謄本
丙 法令の適用
児童福祉法第六十条第一項(懲役刑選択)同法第三十四条第一項第六号、刑法第二十五条、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文
尚本件被告人並びにその弁護人に於て被告人が大○フ○ヱを使用する際に同女の年齢が十八才未満であつたことの認識がなく斯く認識がなかつた点について過失がなかつた旨主張するので按ずるに証人大○フ○ヱの尋問調書、斎藤茂奈加の供述調書謄本によると大○フ○ヱが昭和二十八年十二月十三日頃凾館市湯の川町温泉旅館大滝温泉客室に於て被告人方に接客婦として雇はれるについての各種の条件を取決める際にも亦その夜大○フ○ヱが被告人に伴なはれ被告人方に赴いた際にも大○フ○ヱに於て被告人より同女の年齢、両親の住所、姓名、家庭関係等の点に関し質問されたのに対し、同女はその年齢の点につき被告人に対し二十一年又は二十二年なる旨答えた他は総て真実を述べて居たことが窺はれるのである。そこで後記のように被雇児童の年齢確認につき法律上特別の注意業務を負担すべき特殊飮食店を業とする被告人に於てその際大○フ○ヱに対し更に年齢を確認する方法として当然同女に対しその戸籍謄本若しくは移動証明書等同女の年齢につき公信力ある文書の所持の有無をただし又は之が文書の呈示を求むべかりしに拘らず事ここに出でずして漫然同女の言を措信して同女の年齢を確認する措置に出なかつたのみならず仮に前記のような文書の所持の有無をただし又は之が呈示を求めることをしなかつたとしても被告人に於て既にその際は大○フ○ヱよりその真実の同女の姓名、その両親の住所、姓名並びにその家庭事情等をも聴取しているので大○フ○ヱの年齢を確認し得る適格なる資料を確保し得た状態に在つたものと認め得べく斯かる状態に在つたに拘らず大○フ○ヱの両親等に対し遅滞なく右フ○ヱの年齢確認のための照会その他適切なる措置をとらなかつた点について被告人に大○フ○ヱの年齢の点に関する認識につき過失がなかつたと認めることは到底出来ないところであり、且つ又証人大矢東助、同大○フ○ヱの各尋問調書を綜合して考察するに被告人に於て大○フ○ヱより同女が被告人方に雇はれている事実を右フ○ヱの両親に通知する意思があるかどうか質問されたのに対し被告人に於て右フ○ヱに対し左様な事実を同女の両親等に通知する意思がない旨返答し居る点並びに右フ○ヱの父大矢東助に於て同人に宛てたフ○ヱよりの書信により始めて同女が被告人方に現在し居る事を確認し得た点等より考究すれば被告人に於て当初よりフ○ヱの年齢確認のために適格なる措置をとる意思すらなかりしことをも肯認出来るので、この点に於ても被告人に大○フ○ヱの年齢が十八才未満であつたことを知らなかつたことに過失がないと謂う主張も全然あたらないところである。
最後に被告人は大○フ○ヱの容姿体格が一見して十八才以上の婦人の如く見えたので同女が十八才未満の児童ではないと認識するに至つた点についても過失がないものの如く主張するのであるが、人の容姿体格とその年齢とは必ずしも常に男女共に一致するものではないことは公知の事実であり、特に飮食店営業を経営する被告人に於て使用される者の年齢確認については児童福祉法との関係に於ては業務上特別の注意義務があるものと解するを相当とすべく単に業者たる被告人自身の従来の経験又は純然たる主観的判断により被雇児童の年齢を推定識別せんとすることは同法の企図する児童福祉の維持増進を確保せんとする本来の精神を抹殺せんとするにひとしいことであるので、この点に関する被告人の主張も亦採用することが出来ない。
仍つて主文の通り判決す。
(裁判官 馬場励)